こんにちは。オランダの農業大学で学んでいる、ライターインターン生の森田です。
オランダと言われて、大麻(マリファナ)を思い浮かべる人も多いかもしれません。
オランダに来てから、街を歩いていると吸っている人がいるので、匂いに気付くようになりました(もちろん、吸ったことはありません(笑))。
マリファナとよく混同されるのが麻(別名ヘンプ、漢字だと同じ「大麻」とも)。
ヘンプは種(ヘンプシード)がスーパーフードとして注目されたり、種に含まれる油に健康効果があったり、茎の部分の繊維が服や縄に使われたりと、何かと様々な分野で使われている植物です。
ヘンプシード(上:ah.nlより)と縄(下:asamitsu.comより)
私は昨年、大学の研究者に誘われて、土壌の選択がヘンプの成長に、どのような違いを及ぼすかを調べる実験を行いました。
今回の記事では、マリファナとヘンプの違い、オランダでのヘンプ栽培の現状と市場、私が大学で行った栽培実験と将来の展望をご紹介します。
ヘンプの穂の収穫(研究者撮影)
さくっと概要を知りたい方はこちらへ
ヘンプ(麻)とは?マリファナとの違い
ヘンプとマリファナは両方とも、Cannabisという、麻科麻属に分類されます。
両者の違いについてネットで面白いたとえを見つけたので拝借いたしますと
柑橘類には酸っぱいものと甘いものがあるように、麻属にもヘンプとマリファナがある、ということだそうです。
柑橘類の分類とカンナビスの分類(cbdorigin.com/hemp-vs-marijuanaより)
麻属には沢山の品種が存在しますが、「ヘンプ」と呼ばれるものと「マリファナ」と呼ばれるものの区別については、テトラヒドロカンナビオール(THC)という成分の量が決め手となります。
THCが多く含まれるのはマリファナ(一般的には15~40%程度)ということになり、精神活性効果があります[1]。
分け目となるパーセンテージは国によって異なり、例えばアメリカではTHC含有率が0.3%以下、ヨーロッパ連合では0.2%以下がヘンプ、それ以上はマリファナとされます[2]。
また、ヘンプにはカンナビジオール(CBD)という成分が多く含まれており、頭痛軽減や精神安定などに効果があると言われています[3]。
オランダでヘンプは栽培されているの?
マリファナの栽培はオランダでは特別許可の与えられた事例を除き禁止されています。また、ヘンプの栽培にも、マリファナのような厳しいものではないですが、一定の規制がかかっています。
ヨーロッパは世界のヘンプの4分の1を栽培していて、その半分近くはフランスが占めています[4]。
大学の栽培実験でも許可が必要でした。許可に加え、通りかかった人がマリファナと間違って盗んだり使用したりしないように、立て看板も立てました。
規制はあるものの、ヘンプは病害虫に強い上に水の使用量が少ないため、持続可能な農業を目指しているオランダでは、企業や栽培者からビジネスとして注目されている作物でもあります。
(著者撮影)
ヘンプ(麻)はどのように使われるの?オランダのヘンプ市場
上述のように、様々な分野で使われているヘンプですが、ここオランダのスーパーで主に見かけるのは、ヘンプシードやそれから搾られる油、種子が配合されたプロテインパウダー、加工食品などです。
殻付きの種子はあまり見かけず、ほとんどが加工されたもの(殻無し・粉末など)なのは、食べやすさに加え、誰かが勝手に栽培するのを妨げるという意味もあるのかもしれないと思います。
薬局や健康品店にはCBDオイルそのものや、それが配合された飲食品も置いてあります。
1.プロテインパウダー 2.ヴィーガンナゲット(海藻入り!) 3.化粧水 4.CBDオイル5.CBD入りチョコ(1:ah.nl 2:ekoplaza.nl 3・4・5:hollandandbarrett.nl)
この他にも、繊維として衣料品に用いられるほか、更に最近では、プラスチックの代用品、建築の素材、家畜の飼料など、様々な応用が研究されています[5]。
ヘンプの栽培実験とレポート
ヘンプの栽培実験:背景と目的(サーキュラー・エコノミー、循環型経済)
さて、そろそろブログの表題、「サーキュラー・エコノミー」に話を移しましょう。このサーキュラーエコノミー自体については過去の佐藤さんの記事をご参照ください。
ヘンプがサーキュラー・エコノミーにおいて、どのような役割を果たすのか。
冒頭で触れたヘンプの栽培実験は、過去のプロジェクトと組み合わせ、「循環」を作ろう、という試みでもありました。
この循環は、下の図に示されています。
(大学で作成)
大学では既に、地域の新規事業と協力し、学食から出るコーヒーかすをキノコの栽培地にしていました。
また、使い終わった栽培地をミミズに分解してもらい、堆肥を作る実験もしていました。
ここまでで、コーヒーかすという余るほどある資源から、キノコ、ミミズという二つのたんぱく質源を作り出すことができています。ミミズを食べるかどうかは別ですが・・・。
ここでさらに、完成したミミズ堆肥を使ってヘンプを育てることで、植物性たんぱく質を作ることができます。
今回の実験では、ミミズ堆肥を使った土壌がヘンプ栽培に適するのか否かを調べました。
具体的には次の観点からです:
- 土壌処理による、土壌成分の違い
- 土壌処理による、ヘンプの成長と種子のたんぱく質含有量の違い
- また併せて、次回以降のヘンプの栽培実験を行う際、どの品種を使うと良いかを調べるために、ヘンプの品種による成長の違いも調べることにしました。
土壌処理は、ミミズ堆肥と落ち葉堆肥、対照としてバーミキュライトを使いました。
また、ヘンプはKompolti、Campanile、Felina、Fedoraの4品種を使いました。
ヘンプの栽培実験:方法
5月初旬に苗を定植
8月に摘芯し、側枝の成長を促す
8月に土壌サンプルを取り、研究所に送る
9月下旬に種のサンプルを取り、研究所に送る
ヘンプは病害虫に強いらしく、水やりなどの世話もそれほど要らないため、防虫ネットや農薬、灌水システムなどは使わずに露地栽培を行いました。
定植前のヘンプ(著者撮影)
ヘンプの栽培実験:結果・考察
- 窒素量が約10倍
- 有機物質も約10倍
- リン酸は約3倍も含まれていました。
左からミミズ堆肥、バーミキュライト、落ち葉堆肥(著者撮影)
ミミズ堆肥は合成肥料に頼らず、土壌を豊かにする鍵になりそうですね。
2.土壌処理による、ヘンプの成長と種子のたんぱく質含有量の違い
土壌処理によるヘンプの成長には違いが見られたものの、たんぱく質含有量(種子あたり)はほぼ同じでした。
ミミズ堆肥を混ぜた土壌では、ヘンプは早く高く成長し、側枝の数も多いようでした。
結果的に、採集できる種子の量も多くなりました。
6月24日の様子(著者撮影)
種子のたんぱく質含有量に関しては、どの土壌処理でも1キロの種子あたり200g前後と、違いが見られませんでした。
土壌処理の影響は、収穫できる種子の総量には見られたものの、種子あたりの成分量には反映されなかったようです。
脱穀作業(著者撮影)
3. ヘンプの品種による、成長の違い
最後に、ヘンプの品種によって、種子の量、枝の多さなどに大きな違いがあることを、見た目での判断にとどまるものの、確認できたのも重要でした。
例えばFelinaは、他の品種に比べて側枝の数が多く、種子の量も多いように見えました。
それに対してKompoltiは雄株が多く、種子はあまり採集できませんでした。
また、Campanileは竹のような太い茎に成長したものの、種子の量は比較的少なかったです。
Campanileの太い茎(著者撮影)
種子を収穫するため、茎から繊維を取るため、など、用途によって品種を選ぶことが重要そうですね。
次回以降に実験を行う際、種子を採って使うことを目的にするのであれば、Felinaが最適だとわかりました。
ミミズ堆肥を混ぜた土壌の様子(著者撮影)
ヘンプ(麻)実験のこれから、ヘンプのこれから
今年もヘンプの栽培実験を行う予定です。昨年学んだことをもとに、新たに何を調べるのか考えています。
以下、今年調べるかもしれないこと、将来挑戦できたらいいことなどを書き出してみました。
1.栽培地の有効活用
ヘンプは背が高く、上部に枝葉が集中するため、ヘンプの根元で栽培できるものはないか。
あったとしても、ヘンプの成長に悪影響を及ぼさないものでないといけません。
病害虫に強いといわれるヘンプですが、コンパニオンプランツが存在するのかも興味をそそります。
2.ヘンプの加工方法
ヘンプを収穫した後に茎を寸断しようとした際、繊維が多すぎてミニサイズの機械では詰まってしまいました。
効率よく繊維とその他の部分を分ける方法が必要です。
繊維質の多いヘンプの茎(著者撮影)
また、穂から種子を分けるのも一苦労。熟すのが一律でなかったり、殻でしっかり包まれていたりと、難題が尽きません。
3.ヘンプの有効活用
繊維を何とか取り除くことのできた茎の欠片は、キノコ栽培者にお渡しし、培地に使用できないかどうか試してもらっています。
もしも使うことができたなら、コーヒーかす→キノコ→ミミズ堆肥→ヘンプ→キノコという循環が完成しますね。
最後に
日本でもヘンプは栽培されているものの、オランダ以上に厳しく規制されているようです。
私の視点で農業の面から見ると、ヘンプは病害虫に強く比較的手間暇のかからない作物、
茎は日本の歴史の中でしめ縄や衣服として使われ、世界では持続可能な素材として注目されている作物[6]、
種子は日本では七味唐辛子に、世界では健康・美容効果の期待できるヘンプオイルや、植物性たんぱく質、牛乳に変わる植物性ミルクなど新たな活用方法が次々と出てきている作物、
その他にも健康効果の期待できるCBDオイル、循環型経済におけるヘンプの活用など、
可能性の大きい作物に思えます。
日本での栽培にも規制緩和を求める声があるようですが、これからヘンプ栽培・市場が日本や世界でどう発展していくのか、そして今年のヘンプの栽培実験ではどんなことを発見できるのか、楽しみです!
ご覧頂きありがとうございました。
水城の編集後記
ヘンプ・大麻、個人的にもとても注目している作物です。
特にCBDオイルは炎症やうつ病、不眠にも効果が高いようで、オランダのドラックストアで購入して試してみたりもしました(あまり効果は実感できませんでしたが、濃度や質など色々あるので、今後も試してみます)。
また、世界ではアメリカの州やカナダなど大麻合法化など広がりを見せており、昔のアメリカで起こったゴールドラッシュをもじって、「グリーンラッシュ(Greenrash)」と言われ、投資やビジネスが急成長しているようです。
オランダの農業メーカー(温室関連など)も北米で、大麻用の温室設備に力をいれているようです(以前関係者から、通常10年超で投資回収する温室の初期投資が大麻なら数ヶ月でペイできると聞き、驚きました!)。
今回の記事のような持続可能な作物としてのヘンプも、とても興味深い分野ですね!
森田さん素晴らしい記事をありがとうございました!
参照リンク:
[1]https://marijuana.jp/what-is-the-difference-between-hemp-marijuana-and-cannabis/
[3]https://www.medicalnewstoday.com/articles/325871.php#differences
[4]https://www.healtheuropa.eu/industrial-hemp-revolution/92912/
[6]https://www.textilegence.com/en/hemp-fiber/